人的資本情報開示元年
昨年も当コラムで取り上げましたが、2023年3月期決算から上場企業には人的資本に関する情報を有価証券報告書に記載することが義務化されたため、今年は人的資本情報開示元年とされています。2023年3月決算の上場企業の多くが6月下旬に有価証券報告書を開示し、その中から日本を代表する大手企業の有価証券報告書の内容を見て思うところがあったので、今回はこのトピックについてご一緒に考えたいと思います。
開示が義務化された人的資本情報の内容
現時点で有価証券報告書上に開示が義務化された項目は2点あり、一つは女性管理職比率、男性育児休暇取得率、男女賃金格差といった定量的な数値の状況、もう一つはやはり今回から新設されたサステナビリティ経営への取り組みの一項目としての人材戦略の内容についてです。経営戦略の一環としての説明が求められていました。
予想以上に低調だった
ごく一部の企業を除いて、上記の開示が義務化された内容を株主総会に先立って行われた決算資料等で説明した企業はほとんどなかったので、あまり株主にアピールできる内容ではないだろうなと予想はしていましたが、主に大手製造業20数社の有価証券報告書の内容を見た限りでは女性管理職比率が10%を越えた企業は1社もなく、男性の育児休暇取得比率が5割を超えた会社は半数もありませんでした。世界経済フォーラムが先日公表した2023年版ジェンダーギャップ指数で日本が125位になったのを裏付ける結果だったと思います。
もちろん私もすべての企業の有価証券報告書を見たわけではなく、昨年9月に発表された帝国データバンクの調査によれば製造、建設、運輸といった業種は全般的に女性管理職比率が低いという結果も出ているので、この内容が全体の傾向を示しているとは必ずしも言えませんが、一方で定性的な内容である人材戦略の方では大半の企業が多様性の重要性について言及していたので、実態はかなりお寒いと言わざるをえないでしょう。日本政府は2030年に全上場企業の女性管理職比率が30%を越えることを目標として掲げていますが、このままの推移では到底目標に届かない事が予想されます。
取り組みの遅れに危機感を持った
日本社会は全般に同質性が高いと言われていますが、大手企業の経営陣の経歴を見るとほとんど日本人大卒男性です。取締役会に女性取締役や外国人がいるとしている企業も、ほとんどが業務執行に従事しない社外取締役であるケースが大半です。
したがって経営戦略レベルで月に一回程度多様性の重要性が議論されていたとしても、上述の管理職比率とあいまって業務執行段階では多様な価値観を取り込む余地がとても少ないのが実態と思われます。企業に変革をもたらし新たな成長ドライバーとなるイノベーションは同質性が高い集団からは生まれにくいとされています。なかなか現状から変われない日本の大手企業の実情を数値でも確認して暗澹たる気持ちになったのは私だけではないのではと思います。
今後の企業の取るべき対応
今年の決算開示では、人的資本に関する情報開示が義務化されたので仕方なく必要最小限の情報開示をした企業が多かったと思います。どう見栄えのいい情報を開示できるかではなく、まずは自社の状況が客観的に見てどうなのか、改めて考えるきっかけになればいいと思います。
開示された情報を見るのは株主だけではありません。社員、取引先、顧客も見ていると考えたときに、今のままでいいのか、それとも成長戦略を遂行する上で柱となる人材戦略とよべるものがあるのか、じっくり考える必要があると思います。上述したジェンダーギャップ指数にもあるように、日本は国際的に見て多様性に乏しい国だとみられています。多様性が乏しい国の企業のグローバル戦略、と軽く見られないよう、今後この問題に真剣に取り組む日本企業が増えることを期待したいと思います。
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