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タイでは立替精算が非常識!? ― 日本の常識はタイの非常識 Part.9


立替精算が非常識!? ― 日本の常識はタイの非常識 Part.9

タイの経理と日本の経理は同じではない


 タイでの経理業務には、日本での経験や常識がそのまま通用しない場面が数多くあります。今回も、日本では当然とされる実務が、タイでは異なる運用となっている事例を3つ取り上げます。小さな違いに見えても、放置すると誤解やトラブルの原因となりかねません。日タイ間の制度・文化のギャップを理解し、実務に活かせるヒントをお届けします。


経費は“前払い”が基本。立替精算の導入には要注意


 日本では、出張旅費や交通費などの経費について、従業員がいったん立替払いし、月末や翌月の給与と一緒に精算されるのが一般的です。特に数万円〜十数万円程度の立替は「自己負担して当然」という感覚もあるかもしれません。


 一方、タイではこのような立替文化はあまり一般的ではなく、事前に前払金(Advance)を渡し、その後に差額を清算するという運用が主流です。事後精算であっても、金額は少額にとどまり、立替後すぐに現金で清算する運用が採られることもあります。


 この背景には、タイの平均的な給与水準では一時的な立替でも負担が大きくなりうるという事情があります。たとえば5,000バーツ(約23,000円)の立替でも、個人のキャッシュフローに大きな影響を与えることがあります。社内で精算ルールを整備する際は、日本的な「立替・事後精算」を当然とせず、現地従業員の視点に立った制度設計が必要です。


“監査対応できる人材”が社内にいない場合もある


 日本では、財務諸表監査を受けるのは上場企業などに限定されるため、監査対応経験を有する経理人材が社内に配置されているのが通常です。


 しかし、タイでは原則すべての法人が毎年会計監査を受ける必要がありますが、監査対応を担える人材が社内に存在しないことが珍しくありません。このため、監査人からの確認事項や証憑依頼に対して社内で対応できず、会計事務所に丸投げされたり、監査人自身が財務諸表作成を“実質的に代理”で行ってしまうといった状況も起こりえます。


 タイ現地法人がこのような体制であることを日本本社が知らず、「決算や監査に何か問題があっても自社で対応できるだろう」と誤解していると、監査の進捗遅延や質の低下、コンプライアンスリスクにつながる恐れがあります。監査対応を外部に委任するにしても、自社でその状況を把握し、最低限のチェック体制を整えることが重要です。


固定資産台帳と減価償却がExcelベース


 日本では、固定資産管理システムを用いて、資産の取得・移動・除却・減価償却などを一元的に管理するのが一般的です。これらの情報は会計システムと連動しており、会計帳簿との整合性も自動的に担保されています。


 しかし、タイでは中規模以上の企業であっても、固定資産台帳がExcelで管理されていることが珍しくありません。そのため、


  • 減価償却の計算が手動で行われており、計算ミスや算入漏れが発生しやすい

  • 会計帳簿との数値が一致しておらず、監査時に修正が求められる


といった事態が起こることもあります。実際には、固定資産が物理的に存在しているにも関わらず、帳簿に計上されていない、あるいはその逆といったケースも見られます。会計システム上での自動連携が前提になっている日本の感覚とは異なり、タイでは「会計と資産管理が一致していないこともある」と認識しておくことが重要です。


まとめ


 今回取り上げた「経費精算文化の違い」「監査対応の体制差」「固定資産管理のアプローチ」はいずれも、日本の経理経験をそのまま持ち込んだ際に誤解しやすいポイントです。帳簿や報告書だけでは見えにくい部分にこそ、実務上の大きな落とし穴が潜んでいます。


 「タイのやり方が正しいか/日本が正しいか」ではなく、それぞれの制度・文化・背景を理解し、現地の実態に即した柔軟な対応をすることが、円滑な経理運営への第一歩です。本コラムが、現地理解と実務改善のヒントになれば幸いです。



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