
タイの経理とは
タイで株式会社や駐在員事務所を設立すると、経理業務が発生します。ここでいう経理業務とは、会計記帳・税務申告・会計監査対応といった会計・税務に関する業務を指します。
タイで事業を行うためにはこれらを日本とは独立に実施する必要があります。しかし、日本の常識に基づいてタイで経理業務を進めようとすると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。本稿では、日本では当たり前と考えられるものの、タイでは必ずしもそうではない3つのポイントを紹介します。
1. 法律上の期限は守る
日本では、コンプライアンスの観点から、法律上の期限は厳格に順守するのが一般的です。他方、タイでは法律上の期限が設けられていても、罰金が発生しない限り緩やかに扱われることがあります。
例えば、財務諸表監査は決算後4か月以内に実施される定時株主総会までに完了すべきとされているにもかかわらず、実際には株主が問題視しなければ期限を超過することも珍しくありません。実務上、法人税申告書の提出期限である決算後150日を最終期限として監査が進められることが多いのが実情です。
そのため、法律通りにスケジュールを進めたい場合は、監査人との事前調整が必要になります。タイの会計監査人のスタンスを日本の慣習とは異なる部分を認識したうえで対応することが重要です。
2. 経理担当は資金繰りも対応できる
日本では経理担当者が資金繰りの作成・管理を行うケースは珍しくありません。一方、タイの経理担当者の業務範囲は、基本的に過去の数値を正確に会計・税務処理に落とし込むことにあります。そのため、資金繰りのような将来の予測や分析を行うのは一般的ではありません。
加えて、タイの経理担当者の中には「将来の数値を提示すること」に強い心理的抵抗を持つ人が多いです。なぜなら、予測が外れた場合、それが「間違い」と見なされることを恐れる傾向があるためです。
経理担当者に資金繰り業務を任せたい場合は、予測数値と実績数値の差異は「誤り」ではなく「変動」として扱うことを丁寧に説明しましょう。結果として彼らが安心して業務に取り組めるような環境を作ることが重要です。
3. 会計数値の監査修正は発生しない
日本では、会計監査の結果としての監査修正が発生しないことが前提かと思われます。特に大企業では、監査修正があることが非常に重大な問題と捉えられる場合があるために、避けるべき事態と考えられます。
一方、タイでは監査修正が発生することは珍しくありません。むしろ「監査修正があることが正常」と考える監査人もいます。さらに言えば、監査修正を通じて最終的に財務諸表の数値が正しくなるのであれば問題ない、という認識が根強くあります。あるタイの監査人から「監査修正がないと仕事をしていない気がする」という発言を聞いたこともあります。
斯様に、タイでは会計監査の監査修正に関する考え方が日本とは大きく異なります。監査修正を避けたい場合は、親会社の経理部門がタイ現地法人の会計データを細かくチェックすることにより、修正が必要な点を事前に洗い出すといった対応が求められます。また、不明点があれば、監査人と事前にすり合わせを行うことで、監査修正が発生しないように工夫することが必要です。
まとめ
タイでの経理業務は、日本の常識が必ずしも通用しない部分が多々あります。本稿で説明した内容は、特に日本の基準を前提にすると戸惑う可能性が高いと思われる事項です。これらの違いを理解することにより、適切に対策を講じることで、タイでの経理業務をスムーズに進めることができます。日本のやり方にこだわらず、現地の実情を踏まえた柔軟な対応を心がけましょう。
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