タイの経理 - 日本の常識はタイの非常識 Part. 4
- 倉地 準之輔
- 2 日前
- 読了時間: 4分

タイの経理と日本の経理は同じではない
タイで株式会社や駐在員事務所を設立すると、経理業務は日本本社とは切り離し、タイ独自の法制度や実務慣習に則って進めなければなりません。日本で当たり前とされている経理のやり方をそのまま適用しようとすると、思わぬ違いや戸惑いに直面することがあります。
本稿では、日本の実務経験を前提とした場合に特にギャップを感じやすい、タイ特有の経理事情を3つ取り上げてご紹介します。
普通の会社員は個人所得税申告は会社が代行(年末調整)してくれる
日本では会社が年末調整を行うため、個人で確定申告をする必要がない人も多いですが、タイにはその制度がなく、原則としてすべての納税者が毎年3月末までに前年度の所得を自分で申告しなければなりません。調整項目がなければ、会社が発行する源泉徴収証明書を使って簡易に済むこともありますが、会社側に最終税額の計算や納税義務はありません。
そのため、日本から赴任してきた駐在員が「税金は自分で申告するのか」と驚くこともあります。また、この申告対応を本人が行うのか、会社がアウトソースした業者が行ってくれるのかは、企業によって異なります。駐在員か現地採用かにかかわらず、自分がどこまで対応する必要があるのか、あらかじめ確認しておくことが重要です。
会計士は会社に対しての独立性を保持している必要がある
日本の監査制度では、「会計監査人の独立性」が極めて重視されます。特に近年では、一般的に監査対象会社に斟酌した判断を下すのは言語道断、という感覚があるように思われます。他方、タイではこの独立性に対する考え方が実務上やや緩やかです。むしろ「会社の状況をよく知っている会計士の方が話が早い」「指摘ではなく提案をしてくれる監査人がありがたい」といった空気が存在し、会計士には“相談相手”としての柔軟な姿勢が期待される場面が少なくありません。
更には、監査対象会社の代わりに会計情報や財務諸表そのものを作成することも決して珍しいことではありません。もちろん、形式的にはタイでも独立性要件は存在しますが、現場レベルでは「毎年同じ人に頼む」「知人から紹介された会計士と取引を続ける」といった実情も見受けられます。日系企業においては、監査人に期待する役割と、現地の監査人が捉えている役割とのギャップに注意が必要です。
「財務分析」も経理の仕事である
日本では、経理部門が月次の財務諸表をもとに業績分析を行い、経営層にレポートするのが一般的です。とりわけ予実差異分析や損益分岐点の試算といった財務分析は、経理の当然の役割とされています。しかしタイでは、「経理=記帳・申告を正確に行うこと」と捉えられており、財務分析は“経営層や“日本人マネージャーの仕事”とみなされる傾向が強いです。
タイ人経理担当者に対し、「このデータから何が読み取れるか考えてほしい」と依頼しても、戸惑いや抵抗感が返ってくることが少なくありません。財務データを活用した分析を期待する場合には、分析の目的・背景を丁寧に伝えた上で、「アウトプットの雛形」を示すなど、具体的なサポートが必要です。
まとめ
タイの経理業務には、日本では当たり前とされている制度や役割分担がそのまま通用しないケースが数多く存在します。本稿で取り上げた「年末調整の不在」「会計士に求められる独立性の違い」「財務分析に対する役割認識のギャップ」は、いずれも日本の常識を前提にしていると見落としやすいポイントです。
これらの違いを正しく理解したうえで、現地の実情に応じた体制づくりやコミュニケーションを心がけることが、円滑な経理運営と誤解・摩擦の回避につながります。日本流のやり方に固執するのではなく、柔軟かつ実務的な対応力が求められるのが、タイにおける経理実務の現場です。
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