タイの退職給付引当金と退職給付費用について
決算報告書に記載されている「退職給付費用/ Employee benefits」をよく目にします。この退職給付費用は決算調整時に会計スタッフまたは監査人によって計算され、その計算結果は決算報告書に記載されます。特に従業員を多く雇用している企業は、この退職給付費用が当期損益に大きく影響することがあります。
退職給付費用/Employee benefits とは何か?
「退職給付費用/ Employee benefits」とは「従業員給付」、「従業員に対する利益」と訳され、賞与、福利厚生、団体保険料、退職金積立基金、退職金など、従業員から受けた役務や 雇用終了の対価として企業が提供するあらゆる形態の報酬を指します。
タイ国会計法において、タイ会計士協会(Thai Federation of Accounting Professions/TFAC)が定めた公的説明責任を有する上場企業等向けのTAS 第19号「Employee benefits/従業員給付」では、従業員の福利厚生を4種類に分類しています。
① 給与、賞与、短期休暇等の「短期従業員給付」
② 従業員解雇に対する「解雇給付」
③ 定年退職に対する「退職後給付」
④ 永年勤続表彰金等の「その他の長期従業員給付」
一方、公的説明責任を有しない中小企業向けの第16 章 「引当金、偶発負債および偶発資産」では、従業員給付の計算については特に言及していませんが、従業員給付を対象として発生する負債・債務の見積りについて記載しており、その計算方法については分類・特定せず、一定条件に該当する企業は最善の見積り方法を用いて、引当金を計上しなければならないと述べられています。
この「従業員給付を対象として発生する債務の見積り」とは、企業が法的債務として将来見込まれる退職給付支払額のことを意味し、「Employee benefits/退職給付費用」の勘定科目に計上されます。
中小企業における退職給付引当金計上の理由
1. タイの会計基準
タイ会計士協会が発布した中小企業向けの会計基準であるTFRS for NPAEs(タイ国財務報告基準)第16 章 引当金、偶発負債および偶発資産(Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets)により、退職給付引当金の計上が求められています。
2. タイ会計士協会告示
タイ会計士協会は2011年6月17日付会計士協会告示第29/2554号により、中小企業向けの会計基準であるTFRS for NPAEs(タイ国財務報告基準)第16 章 引当金、偶発負債および偶発資産について、これまで引当金を計上したことがない会社は退職給付引当金を計上することとし、2011年1月1日以降開始する会計年度より適用する内容の発表がありました。
3. 労働者保護法第118条による退職給付債務額の認識
会社は就業規則の作成がなく、定年退職等の退職給付制度がなくても、社会保険に加入し、従業員を雇用している場合、労働者保護法により、会社は従業員の解雇または定年退職者に対し、解雇補償金を支払わなければなりません。この債務および義務について、原則、引当金計上する必要があります。
退職給付費用の算出方法
退職給付費用の算出方法は以下のとおりです。
退職給付の計上
退職給付債務額を算出した後、下記のとおり、財務諸表の勘定科目に計上されます。
貸借対照表(B/S):期末時点の負債『退職給付引当金/Provision for Employee benefits』
損益計算書(P/L):毎期の費用『退職給付費用/Employee benefits』
損益計算書に計上された退職給付費用は当期損益にインパクトを与えますが、法人税計算においては、見積額であることから、税務上損金算入できません。
当期の引当金および費用計上の事例として、
貸借対照表(B/S)の『退職給付引当金/Provision for Employee benefits』:1,730,000THB
損益計算書(P/L)の『退職給付費用/Employee benefits』:730,000THB
※ 法人税計算において、730,000THBは経費不算入の扱いになります。
まとめ
定年退職者への退職金支払いは資金繰りに影響を及ぼします。毎年、退職給付引当金を計上することにより、まとまった資金の確保に役に立ちます。
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