タイは交際費が超シビア!? ― 日本の常識はタイの非常識 Part.8
- 倉地 準之輔

- 10月2日
- 読了時間: 5分

タイの経理と日本の経理は同じではない
今回も前回と同様、日本では当たり前でも、タイではそうではない、という経理実務のギャップを3つ取り上げます。小さな違いのように見えても、実務では大きな誤解やトラブルにつながりかねません。日タイ間の「常識のズレ」に焦点を当てながら、現地での対応に役立つヒントをお届けします。
交際費の損金算入限度額が小さい
日本では、中小法人であれば年間800万円を上限に交際費を全額損金算入できるという優遇制度があり、比較的柔軟な活用が可能です。特に取引先との関係維持や営業活動の一環としての飲食費などについては、「交際費」として会計処理しつつ税務上も損金として処理されることが珍しくありません。
一方、タイにおける交際費の損金算入可能額は課税所得を構成する総収益の0.3%または払込済資本金0.3%のいずれかの大きい金額(ただし、1,000万バーツを上限とする)を年間の限度とすると定められています。
ここで、売上3,000万バーツ・資本金1,000万バーツの会社の場合、損金算入限度額は 約9万バーツ(=売上の0.3%)にとどまることになりますが、これは日本円で40万円ですから、先ほどの日本の交際費の損金算入限度額と比べてかなり小さいということがわかるかと思います。
日本の感覚で交際費を使っているとすぐに損金算入可能限度額を超過してしまいます。タイではビジネスでの飲食は交際費で当然、という感覚を改める必要があるでしょう。
法人住民税・法人事業税はない
日本の法人税の実効税率は約30%ですが、その内訳は国税である法人税以外にも、地方法人税や、法人住民税・法人事業税などが組み合わさって構成されています。ここで、法人住民税・法人事業税については所得とは無関係の構成要素が含まれているため、たとえ法人税法上の所得がゼロであっても、年次決算が終わった後の法人税『等』に関する納付義務が発生するというのが日本での実務です。
一方、タイには法人住民税・法人事業税という概念がなく、結果として法人税の計算において所得と無関係の要素が存在しないため、企業の法人課税においては原則として法人所得税のみが課される構造になっています。したがって、所得がゼロまたは赤字であれば、基本的に納付すべき税金も発生しないというのがタイの原則です。
タイでは「年間の法人税納税義務=所得がある場合のみ発生する」というシンプルな構造であることを理解しておきましょう。
タイには原価計算基準が存在しない
日本では「原価計算基準(企業会計審議会告示)」という実務上の規範が存在しており、直接材料費・間接費・労務費・製造間接費などの定義や配賦の考え方が共通理解として存在します。特に製造業や建設業などでは、この基準を踏まえた原価計算を前提とした制度設計・会計処理が行われます。
しかし、タイにはこのような共通の「原価計算基準」に相当するものが存在せず、各企業が独自に「妥当」と考える方法で原価を把握・算出しているのが実情です。その結果、同じ業種であっても、製造間接費の配賦ロジック(面積・時間・人数など)や棚卸資産の原価計算方法(実際原価・標準原価・予定原価)についてばらつきが存在し、かつ、それがその企業にとって「妥当」であれば認容されるという実務が存在します。
この点を理解せずにタイの原価計算も日本と同じ計算方法であろうという前提で検討を行うと、なぜこの原価がこうなっているのか理解できないといった問題が起こります。原価情報を活用したい場合には、まずその会社で採用しているルールを確認し、運用をすり合わせることがスタートラインになります。
まとめ
今回ご紹介した3つの違い――交際費の損金算入枠の違い、法人住民税・法人事業税の有無、原価計算基準の不在――はいずれも「制度の前提」そのものが異なることに起因しています。帳簿を見ただけでは気づきにくいギャップでありながら、対応を誤ると、税務リスクや経営判断のズレにつながる重大な落とし穴になりかねません。
タイでは、「日本での自社のやり方に慣れていること」が原因で、現地の実務に戸惑うケースが多くあります。一足飛びに日本でのやり方が正しく、タイでのやり方は変だ、と結論付けるのではなく、その背景にあるこういった違いが存在するかもしれないことを意識するだけで、現地チームとの協働や資料の読み取り方が大きく変わります。本コラムが、日タイ間の「常識のズレ」を前向きに理解し、実務で有効な対応を行うためのヒントとなれば幸いです。
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