タイの会計ソフトExpressについて
タイローカル企業だけでなく、日系企業などの外資企業も含めて、タイ国内の企業で最もよく使われている会計ソフトにExpress(エクスプレス)があります。タイのソフトウェア開発メーカー Express Software Group Co., Ltd. によって開発・提供されています。
多くの企業で採用される背景
タイの会計ソフトExpressが多くの企業で採用される背景には何があるのでしょうか。その理由を2つあげます。
採用される理由 ① 経験値のあるユーザーの多さ
会計・経理担当のタイ人社員にソフトを選んでもらうと「以前に使ったことがあるから」という理由でExpressが選ばれるようです。経理の学校用教材としても採用されていることから、会計・経理を学んだ方であれば、一度は使ってみたことがあるため、タイ人経理担当者にとってもっとも親しみのあるソフトになります。
また、タイでは会計業務を社外の会計事務所に委託されている企業も多いですが、そうした委託先の会計事務所でもExpressが最も多く採用されています。そのため、会計事務所からの勧めもあって、Expressを自社の会計ソフトとして採用したという企業も多いようです。
採用される理由 ② 価格の安さ
Expressが採用される理由には、その価格の安さがあります。初期費 19,000 THB ~ 39,000 THBほどで導入することができます。またランニング費用は年間 6,000 THBと月額に換算すると500 THB/月という破格の安さです。この保守費用も自社で管理・運用していけるのであれば必須ではないため、保守契約は結んでいないという利用企業も多く見られます。
実際に他の会計ソフトとの金額を以下で比較してみます。
タイでよく使われている会計ソフトの導入予算の一例
ソフト名 | 導入予算 | 説明 |
Express (エクスプレス) | 19,000 THB ~ | 中小企業向け。 一般会計、販売管理、在庫管理。 カスタマイズ不可。管理会計不可。 |
MAC-5 (マック・ファイブ) | 500,000 THB ~ | 中小企業向け。 一般会計、販売管理、在庫管理。 カスタマイズ不可。管理会計対応。 |
Sage 300 ACCPAC (アックパック) | 1,000,000 THB ~ | 中堅企業向け。 一般会計、販売管理、在庫管理。 カスタマイズ可能。管理会計対応。 |
このように、圧倒的に安い金額設定となっています。タイ現地法人の立ち上げ後、社内の経理・会計管理体制を作る上で、「まずはExpressを入れておくか」という理由でExpressは検討しやすいソフトです。
その他の長所には何がある?
Expressは日本の弥生会計や勘定奉行にあたるタイ国産パッケージソフトです。ERPソフトとしてデザインされており、会計機能だけではなく、販売管理、購買管理、在庫管理まで機能としてサポートされています。タイの多くの日系企業は「B To B」の取引となりますが、その取引の中で必要な伝票管理は、シンプルですが一通りサポートされています。
Expressはシンプルで使いやすいと評判のソフトです。筆者自身も利用経験がありますが、画面は英語に切り替えることができるため、ある程度業務管理ソフトの知識があれば、直感的に使い始めることができます。
特別なユーザー教育を必要とせず、またタイの税務がサポートされていることから、まずはExpressを導入されるというのは筆者自身も合理的な選択肢の一つであると考えます。
一方で短所には何がある?
どの製品にもかならず欠点はあるものですが、Expressの短所には何があるでしょうか? よく挙がる短所に「融通が利きにくい」という点があります。会社の成長とともにシステムに求められる管理要件も複雑になっていくものですが、以下の課題を挙げる方が多くいらっしゃいます。
1.カスタマイズができない
Expressは他のパッケージソフトとの比較でも特にカスタマイズ性が低いと言われます。
例えば「画面に管理項目を増やしたい」、あるいは「この項目は必須入力としたいが、この項目は入力の必要がないので、画面から非表示にしてほしい」といった要望はよく挙がるものですが、こうしたカスタマイズが一切できず、自社のオペレーションに合わせた使い方というよりExpressが持つ機能にユーザーが順応していくような使い方が必要となります。
2.外部システムとの連携ができない
外部システム、例えば生産管理や在庫管理のシステムを導入し、そのシステム側に連携機能があっても、Express側がインポート機能を持っていないためどうしても外部システムのデータを見ながらExpressに人が手でデータを転記入力する作業が発生してしまいます。
3.定型仕訳の登録ができない
毎月、定期的に発生する会計仕訳に関して「定型仕訳」の形でマスタ登録しておくことができません。つまり、仕訳はその都度すべて一から入力しなければならず、ミスが発生する原因にもなります。
4.エクセルやCSVへのデータ出力が出来ない
Expressの中にあるデータを取り出す際、エクセルやCSV形式で出力する機能がサポートされていません。帳票の形式をそのままテキストデータとして出力はできるのですが、エクセルで開くと一行のデータが一つのセルにすべて出力されてしまうため、2次加工が容易ではありません。
このような理由から、組織が小さく、取引の量も多くないうちは問題がなかったけれど、組織が大きくなり、取引の量も増えてきて、複数名での伝票管理のオペレーションが必要になったり、発生する商流のパターンに複数通りの管理が必要になってきたりすると、入力ミスが起きたり、エクセルなどの別管理が増え、業務が属人化してしまう問題も出てきます。
企業が検討しなければならないこと
会計ソフトを選ぶ際に重要なのは、現状の社内オペレーションにとってどのような管理要件が必要とされるかを整理することです。
生産管理・在庫管理など他システムとの連携は必要か
BOI別の決算書作成や、コスト管理など、管理会計は必要か
日本の本社への報告のタイミングと求められる内容は何か
まずはこの辺りの内容を整理することによって、取るべき選択肢は絞られてきます。
業務内容が複雑でないためExcelと組み合わせExpressで一通り管理する。
販売管理システムを採用し、受発注管理、在庫管理、債権債務などを社内で入力管理。記帳代行を会計事務所に委託し、Expressは会計事務所で運用する。
販売管理・生産管理・在庫管理や勤怠管理などの業務管理システムを採用し、Expressですべて管理しようとせずに、他のソフトと棲み分け管理する。
最近では人工知能(AI)の活用事例も
Expressには外部システムからのデータの取り込み機能がサポートされていません。そのため、これまではどうしても人が転記入力する必要がありました。しかし、最近は人工知能(AI)の進化が目覚ましく、これまでは人が手作業でExpressに入力せざるをえなかった以下のような作業が自動化できるようになってきました。
外部システムからの出力データのExpressへの転記入力の自動化
紙伝票からのExpressへの転記入力の自動化
ソフト内容とよく見られる業務課題は動画をご覧ください
Expressのソフト内容とタイでよく見られる業務課題を動画にまとめました。機能概要の説明を通して、タイで求められる業務要件の整理と、どのような点において管理しにくい、システム外のエクセル等で管理せざるを得ないのかを、具体例を交えて説明します。
業務改善に向けた事前準備として本動画をご活用いただければ幸いです。
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「タイはなんでこんなに月次の決算が遅いんだ!」
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