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執筆者の写真鎌倉 俊太郎

PBR一倍割れ問題


PBR一倍割れ問題

PBR(株価純資産倍率)とは?


 株式投資を行っている方はご存じと思いますが、2023年3月に東京証券取引所がプライム市場上場企業に対し、PBR(株価純資産倍率=時価総額÷純資産)が1倍割れ、すなわち現在の株価が会社の解散価値を下回っているとされる水準の企業に対して1倍を越える経営努力をするよう要請を出しました。3月期決算の企業にとって5月は通期決算内容の開示、6月は株主総会と、企業経営者にとって株主との対話の重要性を1年で一番感じる季節なので、今回はこのトピックを取り上げたいと思います。


2023年3月期決算の現状


 2023年3月末時点で、東証プライム市場に上場している1,835社中、PBR1倍以下の会社は全体の48%の884社でした。この割合が米国(S&P500)では5%前後、欧州(STOXX600)では25%前後だったので、いかに日本企業の株価評価が低いかが一目瞭然です。


 株価を上昇させるには純資産を少なくして株主還元に積極的な姿勢をみせるのが手っ取り早いためか、今回2023年3月期決算の企業の決算発表では配当の増加や自社株買いの発表が急増し、期待以上の増配を発表した企業の株価は急上昇する半面、減配を発表した企業の株はすぐに売られるなど、今期の業績見通しや成長戦略の内容以上に株主還元の内容が重視されて株価が乱高下する事態となりました。


東証の要請の本意


 実際、PBR1倍割れというのは相当低い評価だと言わざるをえません。開示されている企業の貸借対照表上の資産は時価のある有価証券等を除いて原則として取得原価で評価されており、部分的には土地等の固定資産は本来の評価額を適正に表示していません。


 また企業が持つすぐれたビジネスモデルやノウハウの多くは無形資産としても貸借対照表上には計上されていません。さらに昨今話題の人的資本に至っては、これからルールを検討する段階です。


 仮にこれらのものを定量評価して貸借対照表に計上すれば、PBRの値はさらに低下してしまうでしょう。もっと今回の東証の要請もPBR1倍を越えるようにというメッセージだけが一人歩きしている感がありますが、その本意は従来のように売上と利益のみを重視するのではなく、もっと資本効率を意識した経営を促す内容となっています。PBRというわかりやすい指標を通じて株式市場での低評価に甘んじる企業経営者への警告と受け止めるべきでしょう。


配当や自社株買いが優先されるべきなのか?


 確かに配当や自社株買いといった株主還元策は、企業が投資家を重視している姿勢を見せて株価上昇につながりやすいと言えるでしょう。ただ株主還元と言えば聞こえはいいのですが、投資先の企業が事業活動を通じて獲得したキャッシュを投資に投じて永続的に成長することが本来株主が期待していることではないでしょうか?将来の利益の拡大期待は株価の上昇にもつながります。配当や自社株買いは企業の成長に何らプラスではなく、長期的には自ら成長をあきらめて投資原資を削っているとさえ言えます。


成長戦略の内容と実行が最重要


 2023年3月期決算発表を見ていると、企業側は成長戦略をしきりに訴えているのに投資家は株主還元ばかりに目が向いている雰囲気があります。冒頭で述べたように、配当額が据え置きや減配だったりすると、決算発表の翌日は株価が従来以上に下がる傾向が目立ちました。企業経営者なら誰しも決算発表の翌日に株価が急落する施策など発表したくはありません。ですが自社の成長戦略に自信をもって実績を示せば、必ず株価はついてくるはずです。目先の株価の乱高下にとらわれず、堂々と成長戦略の提示と実行に邁進する日本企業がもっと増えることを期待したいと思います。


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