タイの経理 - 日本の常識はタイの非常識 Part. 2
- 倉地 準之輔
- 4月1日
- 読了時間: 4分
更新日:1 日前

タイの経理とは
タイで株式会社や駐在員事務所を設立すると、タイの法律や規制に従い、日本本社とは独立して会計記帳や税務申告、会計監査への対応といった経理業務を行うことが求められます。しかし、日本の常識や慣習をそのままタイの経理業務に適用しようとすると、予期しない問題や混乱が発生することがあります。
今回は、前回に引き続き、日本では当然と思われているものの、タイでは通用しない可能性がある経理業務のポイントを3つご紹介します。
売上・費用の見積計上をする
日本では、請求書が未発行でも売上や費用を見積計上することが多くの企業で行われています。これは、経理業務が発生主義に基づいており、月次の適正な損益を把握するために必要な措置だからです。
しかしタイでは、このような実務はあまり見られません。現地では売上や費用は請求書に基づいて処理するという慣習が浸透しており、請求書のない段階で計上を行おうとすると、経理担当者から強い抵抗を受けることがあります。
これはタイの経理担当者が「請求書=確定した取引」という考え方を強く持っているためです。請求書未発行での計上が避けられない場合は、事前に担当者と詳細な計上根拠やプロセスについて明確な合意を得ることが必要になります。
月次会計も発生主義で行う
日本では、月次会計においても実務上発生主義に基づいた収益・費用計上が求められ、月次の損益計算書(P/L)が年度末の決算書と連動していることが期待されます。
一方、タイの月次会計では、実務的には必ずしも厳密な発生主義を適用せず、到着した請求書や支払った経費を処理するだけのケースが多く見受けられます。
これはタイ特有の毎月の税務申告があり、それらの期限内での迅速な対応が優先されることによります。そのため、タイでも日本並みの厳密な月次会計処理を実施したい場合は、事前に現地の経理担当者と詳細なルールや方針についてよく話し合い、合意形成を行っておく必要があります。
会計監査は受けなくて良い
日本では上場企業や特定規模以上の企業のみが公認会計士による会計監査を受けることが法律で義務付けられています。
一方、タイでは原則としてすべての法人、さらに駐在員事務所においても公認会計士による会計監査が義務付けられており、規模に関係なく監査対応を行う必要があります。
毎年必ず会計監査に関する費用が発生し、監査人からの質問や資料提出依頼への対応義務も生じます。言語の壁や会計制度の違いなどがあるため、日本の感覚で対応すると困惑することもあります。専門的なサポートが必要な場合には、現地の外部専門家やアドバイザーに相談することを推奨します。
まとめ
タイにおける経理業務は、日本企業が当たり前と考えるやり方とは異なる点が多々存在します。本稿で触れたポイントは、特に日本の経理の基準を前提としている方にとっては、戸惑いや混乱を引き起こす可能性が高い項目です。
これらの相違点を十分理解した上で、あらかじめ適切な対策を取ることがタイでの円滑な経理運営の鍵となります。日本の常識や自社ルールに固執することなく、タイ現地の慣習や実情に柔軟に対応する姿勢が、円滑な事業運営に繋がります。
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「タイはなんでこんなに月次の決算が遅いんだ!」
「タイはなんでこんなに経理スタッフが多いんだ!」
タイで働き始めた日本人の方とお話させて頂くと、このような課題を挙げられる方が多くいらっしゃいます。
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社内業務の効率化に向けた予備知識として、知っておきたいタイの会計・税務を動画にしました。お時間のよろしいときにこちらもご視聴頂けましたら幸いです。