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月次財務諸表の精度はバラバラ!? ― 日本の常識はタイの非常識 Part.6

更新日:9月1日


タイの経理 - 日本の常識はタイの非常識 Part. 6

タイの経理と日本の経理は同じではない


 タイで株式会社や駐在員事務所を設立すると、経理業務は日本本社とは切り離して、タイ独自の法制度や商習慣に基づいて進める必要が生じます。日本で当然とされているやり方をそのまま持ち込むと、思わぬ落とし穴や実務上のズレに直面することがあります。


 今回は、日本的な感覚を前提としたときに特にギャップを感じやすい、タイ現地の経理実務の特徴を3点ご紹介します。今回から表題をタイ現地の実務側の視点に揃えています。


損金不算入項目は “Non Deductible” でまとめて処理


 日本の経理実務では、たとえ税務上は損金とならない費用であっても、会計上はその性質に応じて正しく費用分類を行い、申告時に別途加算調整を行うのが一般的です。例えば、寄付金であれば「寄付金」、罰金であれば「租税公課」として処理し、そのうえで法人税の申告書上で税務調整を行う運用が一般的です。


 一方でタイでは、経理担当者が「これは税務上損金にならない」と判断した費用を、あらかじめ “Non Deductible” という勘定科目にまとめて計上してしまうことが多くあります。これは税務調査に備えて説明しやすくするという実務的な理由からくるもので、会計上の美しさや分析のしやすさよりも、税務対応の利便性が重視されているといえます。


 結果として、損益計算書上にある“Non Deductible”の金額がやたらと大きいが、内容がよくわからない、という状況になってしまうこともあります。こうした運用に対して「そもそも科目分類として適切ではないのでは」と感じる日本人マネージャーの方も多くいらっしゃいますが、現地では一般的な処理方法と受け止められています。丁寧な意識合わせと、日本人側の理解が必要になります。


現金・小切手の支払が今でも残る


 日本ではコロナ禍を経て会社の支払いといえば銀行振込が主流となっており、現金や小切手の利用は極めて限定的かと思われます。ところがタイでは、今でも現金や小切手による支払いが経理実務において日常的に行われています。


 例えば、従業員の立替経費の精算や少額の外部支払いなどは、会社内の小口現金(Petty Cash)から直接支払われることも珍しくありません。また、まとまった金額の取引先支払でも「会社小切手」で対応することがあり、支払後すぐに現金が出ていくわけではない点に注意が必要です。


 これには、振込手数料を抑えたいという事情や、小切手文化が根強く残っていた時代の慣行を変えたくないという意識といった背景があるようです。また、タイの銀行明細には振込元・振込先の名称が記載されず、銀行振込の金額だけみても『誰による取引か』ということがわからないという実務上の背景があります。


 このため、仮に銀行振込で支払いを行ったとしても支払先から支払帳票を送ってください、という連絡が来たりすることもあり、それならば、慣れている小切手で支払った方が確実だ、と考える経理担当者も少なくないようです。日本の感覚で「振込に一本化すべき」と考えると、運用上の摩擦が生まれやすいため、実態を把握したうえで段階的な改善を検討するのが現実的です。


月次財務諸表の内容・精度が会社ごとに大きく異なる


 日本の会社では、月次財務諸表といえば、損益計算書・貸借対照表・試算表などがセットで作成され、予算対比や進捗管理、経営判断の基礎資料として活用されるのが一般的です。しかしタイでは、「月次財務諸表」と呼ばれる資料の内容や精度は会社によって大きく異なり、簡易な収支表だけで済ませていたり、税務申告用の帳簿をそのまま提出しているケースも少なくありません。


 背景には、タイではVATや源泉税などの毎月の税務申告が義務付けられている一方で、月次財務諸表の作成自体は法律上の義務ではないことがあります。そのため、現地の経理担当者にとっては「税務申告ができていれば十分」と考えられており、月次資料は“あれば便利”程度の位置づけにとどまっている場合もあります。


 こうした認識の違いから、日本側が「月次P/Lをください」と依頼しても、期待していた形式や粒度の資料が出てこないという場面が多く見られます。月次資料を経営管理のツールとして重視する文化が十分に浸透していない点が背景にあるといえるでしょう。スムーズな連携のためには、月次資料の目的・期待水準・フォーマットを丁寧に共有し、現地の実務負荷も踏まえたうえで現実的な運用体制をすり合わせることが重要です。


まとめ


 今回ご紹介した「Non Deductibleへの一括分類」「現金・小切手の根強い運用」「月次財務諸表のばらつき」は、いずれも日本の常識とは異なるタイ特有の経理実務です。こうした違いを理解せずに日本流を持ち込むと、現場との認識にズレが生じやすくなります。タイの慣行を踏まえ、柔軟かつ実務的な対応を心がけることが、現地での経理業務を円滑に進めるうえで重要です。



【免責事項】

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タイの経理 - 日本の常識はタイの非常識

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