タイの貸倒処理は条件が超厳格!
- 深澤 チトラートン

- 27 分前
- 読了時間: 6分

貸倒損失とは?タイでの会計処理と法的対応
貸倒損失とは、取引先などに対して売掛金等の「債権」が回収不能になった場合、これまで計上した売掛金等を減少し、損益計算書(P/L)の費用として計上するものです。企業が取引の代金を回収できないことが確定した時点で損失処理を行います。発生する例としては、取引先が倒産して代金を支払えなくなった場合等です。
貸倒損失と貸倒引当金の違い
決算時に、貸借対照表(B/S)上に貸倒懸念の売掛金等が残っている場合、会計監査人から検討事項として、貸倒懸念債権または貸倒引当金の計上を提案されます。この時によく使用される勘定科目は、次の通りです。
『貸倒損失/Bad Deb/หนี้สูญ』は実際に発生した回収不能な売掛金や債権を損失に振り替え、PLの科目として費用を計上します。
『貸倒引当金/Allowance for doubtful accounts/ค่าเผื่อหนี้สงสัยจะสูญ』は「将来起こるかもしれない貸倒れ」に備えるため引き当てられるもので、過去の実績や取引先の信用状況又は、過去の貸し倒れ率を基に適正な割合を見積もり、その見積額をB/Sに計上したものです。
上記の見積額は相手勘定としてP/L上に貸倒引当金繰入の勘定科目を使い費用として見積計上されます。実際に貸倒れが生じた場合、この貸倒引当金を取り崩す処理を行いますので貸し倒れ時に費用は計上されません。
貸倒損失時のタイでの会計処理
1.債権金額が200万バーツ超の場合
(1) 会社の事業活動に貢献した債権であること(役員貸付金等は含まれない)。
(2) 債権が時効を迎えておらず、訴訟を提起することができる。
(3) 債権を回収しているという明確な証拠が有るにも係わらず支払われていないもの。
(4) 債務者が死亡等して不在、且つ債務を返済する資産が無い又は、債務者が事業を停止し、自己より優先される他の債権者の債権額が自己の債権額を上回る場合。
(5) 債務者が他の債権者から民事訴訟を起こされ又は提訴された後に債務分配の申し立てがなされた場合。裁判所より債務弁済の執行がなされた報告書が確認できるにも関わらず弁済する資産が無い場合。
(6) 債務者が他の債権者によって破産訴訟が提起された場合又は、清算人が裁判所に破産宣告 を申し立て、債務者と和解が成立し、その財産が債権者に分割弁済されたか、裁判所がその破産訴訟の終了を命じた場合。
(7) (5)および (6)の行為が外国でなされた場合は、当該行為を証明する書類は、当該国の法務当局が発行したものをタイ語に翻訳したものでなければならない。
2. 債権金額が200万バーツ以下、20万バーツ超の場合
(1) 上記1. (1) (2)(3)(4)の条件を満たしていること。
(2) 債務者に対して民事訴訟が提起され、裁判所がその訴訟を受理している又は、他の債権者から債務分割の申し出がなされ、その申し出を裁判所が受理している場合。
(3) 債務者に対して破産訴訟が提起され、裁判所がその訴訟を受理していること又は、債務者が他の債権者から破産訴訟を起こされている場合で債務整理の申し立てがなされ裁判所がその申し立てを受理していること。
(4) (5)および (6)の行為が外国でなされた場合は、上記1.(7)に準ずること。
3.債権額が20万バーツ以下の場合
(1) 上記1. (1)(2)(3)の条件を満たしている場合, 上記1. (4)(5)(6)又は2. (2)(3)の基準に従うことなく不良債権を経費処理できる。ただし、債務が未払いであり且つ、債務者に対する訴訟費用が債権額を上回る場合に限る。
債権金額によって差がありますが、その中で特に分かりにくい部分は上記1.と2.の違いかと思います。1.及び2.の共通点は裁判所が破産訴訟等の民事訴訟を受理していることです。1.の方は更に債権者に財産分割等の弁済の措置が実行されていることが規定されており、より損金処理の条件が上がっていることが分かります。
まとめると以下のようになります。
1.大口債権(債権金額が200万バーツ超)
債権者による督促、さらに裁判による判決・執行不能の証拠があること等が求められる。
2.中規模債権(債権金額が200万バーツ以下、20万バーツ超の場合)
同じく督促と裁判等の手続きが必要だが、訴訟を受理していることまででよい等、ある程度、緩やかな条件。
3.少額債権(債権金額が20万バーツ以下の場合)
督促したが回収見込みが低く、裁判費用が回収額を上回ると合理的に説明できれば貸倒を認められることがある。
上記1. 2.又は3.の条件を満たし、税務上の損金とするためには、事業年度末日から30日以内にその債権を損益計算書上の経費として処理することを取締役が承認しなくてはなりません。
日本とタイの貸倒損失
日本の場合、手続きは比較的シンプルです。 日本の法人税法上、貸倒損失として損金に算入できるのは、下記のようなケースです。
1. 法的に債権が消滅したとき(破産・会社更生・民事再生などで法的に債務免除された場合)
2. 実質的に回収不能と判断できるとき(経営破綻や営業停止で、事実上支払い能力がない等)
3. 少額の債権を放棄したとき(金額が少額等)
日本では、実質的に回収不能であることを合理的に説明できれば認められることが多く、法的手続きを経なくても、債務者の状況と社内記録があれば貸倒損失を認められる場合が多いです。
一方、タイでは、貸倒損失を損金として認めるための要件が前述の通り厳格です。債権金額によっては裁判費用や時間もかかることもあり、会計上は貸倒損失にできても、税務上は損金にできないケースが発生するため、様々な観点から慎重に判断することが必要です。
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