日本と違うタイ経理の現場 - 配賦管理・監査対応・引継ぎ問題|日本の常識はタイの非常識 Part.12
- 倉地 準之輔

- 2 日前
- 読了時間: 5分

タイの経理と日本の経理は同じではない
タイでの経理業務には、日本での経験や常識がそのまま通用しない場面が数多くあります。今回も、日本では当然とされる実務が、タイでは異なる運用となっている事例を3つ取り上げます。小さな違いに見えても、放置すると誤解やトラブルの原因となりかねません。日タイ間の制度・文化のギャップを理解し、実務に活かせるヒントをお届けします。
補助科目や部門コードによる費用配賦の仕組みがないことがある
日本の会計システムでは、補助科目や部門コードを多くの勘定科目に設定できることが一般的です。これにより、前払費用や各種経費についても、明細管理や部門別損益管理を財務会計の中で完結させることができます。
一方、タイでは、補助科目を設定できる勘定科目が現金・預金、売掛金、買掛金などに限定されているケースが少なくありません。そのため、前払費用のような勘定科目について補助科目による明細管理ができず、やむを得ず勘定科目そのものを増やして対応している例も見られます。
また、部門コードが設定できない会計ソフトも多く、部門別損益計算書を財務会計データから直接作成できないという制約に直面することもあります。こうした環境で無理に財務会計の中だけで明細管理や部門管理を行おうとすると、記帳プロセスが煩雑になり、データの整合性も損なわれがちです。
このような場合には、割り切って財務会計とは別に管理会計としてExcel等で管理するという判断も、実務的な選択肢の一つと言えるでしょう。
会計監査・税務調査において論拠が曖昧な指摘がなされることがある
日本では、会計監査や税務調査において指摘が行われる場合、その根拠となる会計基準や税法の条文が示されることが通常です。会社側も、その論拠を確認した上で対応方針を検討することができます。
しかしタイでは、公認会計士(会計監査)や歳入局担当官(税務調査)が、具体的な論拠を示さないまま指摘を行うケースが散見されます。例えば、過去に日系企業が歳入局から明確な会計基準や税法上の根拠が示されないまま、「配当をしなければならない」と指摘を受けたケースがあるようですが、これはその一例と言えるでしょう。
この背景として、タイの会計基準や税法は日本ほど詳細な規定が整備されておらず、担当者の裁量や職権が相対的に強く働きやすい点が挙げられます。特に税務については、歳入局担当官の判断が実務に大きな影響を与える場面もあります。
もっとも、タイでも論拠の確認が不可能というわけではありません。指摘内容について粘り強く根拠の提示を求め、会計事務所など第三者の専門家を交えながら対応方針を探っていく姿勢が重要になります。
前任担当者の引継ぎが不十分で、属人化した処理が残っている
日本では、実務慣行として業務の引継ぎが行われることが一般的であり、退職についても数か月前から通知されるケースが多いため、引継ぎのための時間が一定程度確保されます。
一方、タイでは引継ぎがほとんど行われないまま担当者が退職するケースも珍しくありません。経理人員については「1か月前通知」での退職が一般的であり、その期間も日常業務の対応が優先されるため、後任への十分な引継ぎがなされないことが多いのが実情です。
また、仮に引継ぎが行われたとしても、それは「どの作業をやるか」という作業レベルの引継ぎにとどまり、その背景や目的(なぜその作業が必要なのか)までは共有されないことがあります。その結果、「なぜこの処理をしているのか誰も分からない」業務が、そのまま引き継がれているケースも見受けられます。
このような属人化を放置すると、担当者の交代をきっかけに問題が顕在化するリスクが高まります。どこかのタイミングで、マネジメントとして業務内容の棚卸しを行い、処理の背景や必要性を整理することが有効です。
まとめ
今回取り上げた3つのポイント、会計システムの制約、論拠が曖昧な外部指摘、そして業務の属人化はいずれも、日本の実務感覚を前提にすると戸惑いやすいものです。「日本のやり方が正しいか、タイのやり方が正しいか」という二元論ではなく、前提となる制度や実務慣行の違いを理解した上で、現実的な対応策を検討することが重要です。本稿が、そのための視点整理の一助となれば幸いです。
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