銀行明細に振込元が載らない!? ― 日本の常識はタイの非常識 Part.7
- 倉地 準之輔
- 5 時間前
- 読了時間: 4分

タイの経理と日本の経理は同じではない
今回も前回と同様、日本では当たり前でも、タイでは通用しない経理実務のギャップを3つ取り上げます。小さな違いのように見えても、実務では大きな誤解やトラブルにつながりかねません。日タイ間の「常識のズレ」に焦点を当てながら、現地での対応に役立つヒントをお届けします。
サービス提供=ほぼ源泉徴収の対象
日本では、源泉徴収(WHT)は給与や報酬など一部の支払に限定されており、法人間取引ではあまり意識されないように思います。一方タイでは、「モノが動かない=サービス提供」とみなされる支払の多くに源泉徴収が求められます。これが何を意味するかというと、たとえば一般的な広告料、コンサルティング料なども対象となり、例えば広告料では2%、コンサルティング料では3%を源泉徴収する必要があります。
源泉徴収を行うのは支払主の責任であるため、この前提を知らずに総額を振り込んでしまうと税務調査で追徴されたり、仕入先とトラブルになるケースもあります。また、支払先が法人か個人か、国外か国内か、PE(恒久的施設)の有無などでも税率が異なるため、タイでは「とりあえずWHTを意識する」ことが経理の基本動作とさえ言えるでしょう。
銀行明細に振込元の名前が載らない
日本では銀行振込の明細に金額に加えて取引先の名称が明記され、基本的に資金の流れが明細だけで把握できます。しかしタイでは、銀行明細に取引先の名称が表示されないことが多く、自社でコントロールする出金はさておき、入金については金額だけで「誰からの入金か」が分からない事態が日常的に発生します。
このため、取引先からの支払通知、請求書番号、あるいはチャット履歴などを基に、経理担当が照合・確認を行う必要があります。同額の入金が複数あると特に混乱しやすく、「明細を見ればわかる」という日本的感覚は通用しません。支払通知の徹底など、別ルートでの管理が求められます。
勘定科目の補助科目管理が一般的でない
日本では、売上や経費を一つの勘定科目でまとめつつ、補助科目や内訳コードを活用して品目別やプロジェクト別に管理するのが一般的です。たとえば「売上高」という科目の下に補助科目や内訳コードで「商品A」「商品B」「サービスX」などを設定し、詳細分析や月次管理に活用します。
一方タイでは、補助科目を使う文化が根付いておらず、細分化したい場合は勘定科目自体を増やす傾向があります。その結果、「売上高」という勘定科目が20種類存在し、実質的には補助科目の代わりに勘定科目を分けて使う、という状態が起こります。これにより、帳簿が煩雑化し、集計や管理会計上の整合性がとりにくくなるため、日本本社が求める粒度での報告や連結処理を行うには、運用ルールの整理やシステム整備が不可欠です。
まとめ
今回ご紹介した「源泉徴収の広さ」「銀行明細の情報不足」「補助科目管理の一般性」は、いずれも日本の経理担当者が“当然”と考えている運用が通じない例です。こうした違いを把握せずに日本流を持ち込むと、現地経理担当者との認識のズレや、業務効率の低下、さらには税務リスクに繋がるおそれがあります。
現地の実情を丁寧に理解し、必要に応じて制度設計・運用ルールの整備を行うことで、タイでの経理業務をスムーズに進めることが可能になります。形式だけでなく、“前提となる常識”が違うという視点を常に持つことが、タイでの経理対応の第一歩です。
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