知らないと戸惑う、タイの中間納税 ― 日本の常識はタイの非常識 Part.10
- 倉地 準之輔

- 2025年12月18日
- 読了時間: 5分

タイの経理と日本の経理は同じではない
タイでの経理業務には、日本での経験や常識がそのまま通用しない場面が数多くあります。今回も、日本では当然とされる実務が、タイでは異なる運用となっている事例を3つ取り上げます。小さな違いに見えても、放置すると誤解やトラブルの原因となりかねません。日タイ間の制度・文化のギャップを理解し、実務に活かせるヒントをお届けします。
タイの「法人税中間申告」が手続きとして明確に存在
日本では、法人税の納税は原則として決算期終了後に申告・納付する形となっており、中間納付(仮払)制度はあるものの、あくまで事務的な精算手続きとして認識されていることが多いかと思います。
一方、タイでは「PND.51」と呼ばれる法人税の中間申告・納付制度が法令で義務づけられています。これは、会計年度の前半(最初の6か月)における暫定利益を基に法人税を試算し、年の途中で中間申告・納付を行うという制度です。申告期限は、年度開始から8か月以内(インターネット申告の場合7日延長)とされており、年間の収益・費用を見積ったうえで税額を算出する必要があります。
この制度に対応するためには、年間の収益・費用がある程度合理的に見積もることが必要になります。また、中間申告額が過少であり、年末の実績と大きく乖離した場合には、追加納税に加えてペナルティが課されることもあるため、適切な見積もりと記帳体制の整備が重要です。
修正履歴(Audit Trail)を残す文化が薄い
日本では、会計監査や内部レビューの結果として訂正が必要となった場合、①訂正内容を明確に記録・リスト化(例:監査修正仕訳一覧)し、②履歴を保持するために元の仕訳を残し、修正仕訳を別途記録するのが一般的です。これにより、修正の背景や経緯が明示され、会計情報としての信頼性が担保される構造になっています。
しかしタイでは、こうした修正履歴の可視化や追跡性(いわゆるAudit Trail)を確保する文化がまだ十分に根付いていないと感じられる場面がみられます。たとえば、以下のような実務が見られます。
修正仕訳の記録時に、修正内容のリスト化を行わず処理してしまう。結果として「修正仕訳はなかった」という状態になってしまう。
指摘を受けた直後に、元の仕訳を削除または上書きしてしまう。
その結果、決算報告後に修正の痕跡が残らず、本社レビューや将来の監査時に説明がつかなくなるといったトラブルが起こることもあります。
日タイでの会計品質・証跡意識のギャップを埋めるには、“履歴を残すことの重要性”を理解させたうえで、現地スタッフとルールをすり合わせることが不可欠です。
会計記帳は“税務署のため”という誤解
日本では、会計記帳は税務申告に対応するだけでなく、経営管理のための情報基盤としても機能しています。たとえば、月次の試算表を用いた進捗確認、製品別の原価管理、部門別損益などは、税務署の要求とは無関係に「社内で経営判断に使う」ことが目的です。そのため、「できるだけ早く月次を締める」「社内で見る用に速報ベースで損益を把握する」といった発想が広く共有されています。
一方、タイでは、会計記帳を「税務署に提出する書類を作成するためのもの」と捉えている風潮が一部に見られます。その結果として、
月次会計を締めず、源泉徴収・VAT申告だけ済ませて終わり
社内報告用の試算表を作成しない、作成が非常に遅い
会計の即時性・速報性を重視する発想がない
といった状況に直面することがあります。
経営に役立つ会計を目指すのであれば、会計は“税務署のため”だけでなく、“会社のため”にあるという意識改革が必要です。特に、本社からの指示で現地の帳簿整備を早めたいといった場合は、単なる提出書類ではなく、“意思決定の道具”としての会計の使い方を共有することが、改革の第一歩となります。
まとめ
今回取り上げた3つのテーマ――法人税の中間申告、訂正履歴の管理、会計情報の位置づけ――はいずれも、日タイの制度的な違いに加え、実務を支える“前提意識”の違いがにじみ出るポイントです。
これらのズレは帳簿の数字に表れにくく、むしろ実務のプロセスや判断の中で違和感として現れるため、見過ごされやすい側面があります。制度の違いを知るだけでなく、背景にある文化や運用慣行を理解することが、本社・現地間の円滑な連携や品質向上につながる第一歩です。本コラムが、そうした違いを前向きに受け止めるヒントとなれば幸いです。
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「タイはなんでこんなに月次の決算が遅いんだ!」
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タイで働き始めた日本人の方とお話させて頂くと、このような課題を挙げられる方が多くいらっしゃいます。
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