風情ある「のれん」と、会計の「のれん」の話
- 鎌倉 俊太郎

- 12月18日
- 読了時間: 4分

昔は風情のあったのれんの話し
着流しを着た町人がなじみの店先ののれんをくぐって店の奥にいる主人に声をかける。。時代劇のイントロでありがちな風情のある光景ですよね。今やのれんを店先に掲げている店自体もすっかり少なくなってしまいましたが、会計の世界でのれんといえば買収時に被買収企業の簿価純資産と買収価額の差額のことを指します。
やや固い話しで恐縮ですが、のれんの扱いをめぐっては会計界隈では数十年におよぶ議論があり、最近改めてホットになりつつあるテーマですので今回は会計上ののれんの扱いについて取り上げたいと思います。
のれんの正体
会計上ののれんとは、被買収企業のブランド価値、強い顧客基盤、超過収益力であると説明されます(ごくまれにのれんの金額がマイナスの事もありますが、ここではのれんはプラスであることを前提としています)。
のれんの実態は被買収企業の貸借対照表上に現れないものの、買収企業が被買収企業が有する目に見えない資産価値を認識し、純資産より高い価値を被買収企業に認めて買収価額を払うというわけです。
日本基準とIFRS、米国基準の違い
のれんは買収完了と同時に買収企業の貸借対照表の固定資産として計上されます。こののれんをそのままにしておくのか、あるいは他の有形固定資産と同様償却(毎年一定額費用化して減らしていくこと)するのかについて、数十年にわたって国際的な議論が続いており、日本の会計基準と海外の会計基準(IFRS、米国基準等)で大きな違いがあります。
日本基準はのれんの価値は年月とともに低下していくので毎年償却してその価額を減らしていくべきとし、一方IFRSや米国基準ではのれんの価値が永続的なものであり、その価値の減少が明らかになった時に減少分をその時点で償却(会計の世界では減損処理と言います)すればいいという考え方です。
のれんの扱いが違うと何が問題なのか
毎年のれんを償却する日本基準では、当然毎年費用が計上されてその分損益計算書の利益が減ります。同じ会社でも償却方法が違うと利益の額が異なるというわけで、複数の会社を投資対象として比較する投資家からすれば、同じような買収をしている会社なのに日本基準よりIFRSを採用している会社の方が利益が大きく見えるというわけです。
プロの投資家は当然のれんの扱いを知っているので自分でのれん償却の額を足し引きして同じ条件で比較しますが、一般の投資家はそんな面倒なことはしないので、投資行動にも影響も出ることが問題とされています。
最近ののれんを巡る議論
米国でも20数年前までは日本と同様の考え方をしていたのですが、それ以降はのれんを非償却として毎年減損テストを行う処理としています。最近スタートアップ関係者から、のれんの償却分だけ利益の額が低くなるために買い手企業が対象企業を買収しようとしても対象企業の株主が納得できず、結果日本では米国と比べてM&Aが活発にならない原因にもなっているとの主張がなされています。
M&A金額は非開示なことも多く正確な統計はないのですが、米国では昨年度総額4兆ドル超(日本円で600兆円)のM&A実績に対し、日本では20兆円にも満たないとされ、日米で大きな差があるのは事実なので改めてこの問題にフォーカスがあたっている次第です。
そろそろ決着してほしい
時代劇のドラマを外国人投資家に見せて、日本では元々のれんと言えばこの布の事を言うんだと伝えたら日本は歴史と伝統のある魅力のある国だからもっと投資したいと考えてくれるのか、あるいはやっぱり日本は特殊な国だから敬遠しておこうと考えるでしょうか。私自身は会計界隈の一員として、数十年決まらなかったこの問題に決着が着くのか、関心を持って議論の推移を見守っていきたいと考えています。
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