タイの経理 - 日本の常識はタイの非常識 Part. 3
- 倉地 準之輔
- 5月2日
- 読了時間: 4分

タイの経理と日本の経理は同じではない
タイで株式会社や駐在員事務所を設立すると、日本本社とは独立してタイの法規制に基づき経理業務を行う必要があります。しかし、日本で一般的に行われている経理の慣習をそのままタイに持ち込むと、意外なところで問題に直面する場合があります。
本稿では、日本の経理実務では普通とされるものの、タイでは通用しないことがある経理業務のポイントを新たに3つご紹介します。
領収書の宛名が個人名でも経費精算が可能
日本では、従業員が業務上の支払いを立替えた場合、領収書の宛名が従業員個人名でも経費精算が認められることが一般的です。しかし、タイでは領収書の宛名が個人名の場合、法人経費として認められないケースが非常に多くあります。
これはタイの税務当局が領収書の「宛名は法人名であること」を厳格に運用しているためです。法人名以外で発行された領収書を経費として計上すると、税務調査時に経費否認されるリスクがあります。そのため、タイで経費精算を行う際は、必ず法人名で領収書を取得するよう従業員への周知徹底が必要です。
税務署からの還付金はすぐに戻ってくる
日本では、法人税や消費税の還付が発生すると比較的迅速に還付金が振り込まれるケースが一般的で、還付を前提とした資金繰りを組むことも珍しくありません。一方、タイでは還付金がなかなか戻ってこないのが一般的であり、還付申告から実際の入金まで数ヶ月、長いと数年以上かかることも珍しくありません。
また、還付申請を行うとほぼ確実に税務調査が入ります。そして税務調査の結果、還付金がそもそもかえってこない、もっと悪い場合は逆に追徴課税を受ける、といった場合もあります。したがって、タイでは還付を資金繰り計画に組み込むのは現実的ではなく、そもそも還付申告を実施するか否かについても慎重な検討が求められます。
経理書類は電子保存が基本
日本ではペーパーレス化が推進され、経理書類や証憑類を電子保存することが一般的になっています。請求書や領収書をスキャンして電子化し、紙の原本を破棄している企業も多くあります。しかし、タイの経理実務では、未だ紙の原本保存が基本とされており、電子保存を法令上で明確に公式な証憑保存方法として認めることをしていないというのが実情です。
そのため、会計監査や税務調査においても、電子化された書類だけでは不十分とされ、原本提示を求められることがあります。タイで経理業務を行う場合は、必ず紙の原本を適切に保管・管理する体制を整える必要があります。
まとめ
タイの経理業務は、日本企業にとって一般的な実務慣習と大きく異なる点が存在します。本稿で挙げた領収書宛名の取り扱い、還付金の入金遅延、紙書類の保存義務は、日本の経理慣習を前提にすると混乱を招くことがあります。これらの違いをあらかじめ理解した上で、適切な対応策を取ることでタイにおける経理業務の円滑な運営を図りましょう。
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