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日本人が見落としやすいタイの経理・税務 ― 居住者・減価償却・貸倒れ


日本人が見落としやすいタイの経理・税務 ― 居住者・減価償却・貸倒れ

タイの経理と日本の経理は同じではない


 タイで経理業務を行っていると、日本での経験や常識がそのまま通用しない場面に少なからず出会います。今回も、日本では当然とされる実務が、タイでは異なる前提で運用されている例を3つ取り上げます。日タイ間の制度・実務の違いを理解し、日々の対応のヒントとしていただければ幸いです。


個人所得税の「居住者」の考え方と、課税される所得の範囲が異なる


 日本では、所得税法上の「居住者」とは、国内に住所(生活の本拠)があるか、または現在まで引き続き1年以上の居所がある個人を指します。住所があるかどうかは、住居・職業・家族の居住状況・資産の所在などの客観的事実を総合的に勘案して判定され、滞在日数だけで形式的に決まるものではありません。なお、租税条約に関連してよく耳にする「183日ルール」は、短期滞在者免税などの判定基準であり、居住者か否かの判定そのものとは別の話です。日本人の居住者は、原則として国内源泉所得だけでなく国外源泉所得も含めた全世界所得が課税対象となります。


 一方タイでは、タイ国内法上の「居住者」の判定は非常にシンプルで、暦年(1月1日〜12月31日)の間にタイに合計180日以上滞在したかどうかという日数基準で決まります。生活の本拠がどこにあるかといった総合判断ではなく、日数で形式的に判定される点が日本と大きく異なります。そして、タイ居住者である年に生じた国外源泉所得は、タイ国内に持ち込んだ場合に課税対象となる仕組みが採られています。


 この国外源泉所得に関するタイ歳入局の取扱いは、2024年1月1日以降に生じた所得から変更されています。2024年以降に生じた国外源泉所得については、その所得が生じた年にタイ居住者であり、かつその所得をタイに持ち込んだ場合、稼得年と送金年が異なっていても、原則として送金した年の課税所得に含める必要があります。なお、2023年以前に生じた所得はこの取扱いの対象外であり、また投資元本の返還など所得に当たらない資金の送金は課税対象ではありません。


 駐在員の場合、1年以上の予定で海外勤務のため日本を出国する人は、一般に日本では非居住者として扱われます。一方、タイでは赴任期間そのものではなく、各暦年の滞在日数が180日以上かどうかで居住者判定が行われるため、赴任初年度や帰任年度にはタイの非居住者となることもあります。なお、日本側の判定は個別の生活実態や赴任予定等によって異なり、両国で居住者に該当する場合には租税条約の確認も必要です。海外の口座にある資金をタイへ送る場面では、上記の国外源泉所得の持ち込み時課税に留意が必要です。


タイの会計上、固定資産の減価償却は「使用可能になった時点」から開始される


 日本では、法人税上、減価償却は資産を「事業の用に供した日」から開始するのが原則です。機械設備の場合、単に取得・搬入しただけでは足りず、一般には据付けと試運転を終え、本来の用途で事業に使用し始めた時点が償却の起点となります。


 一方タイでは、多くの非上場企業に適用される会計基準(TFRS for NPAEs)上、減価償却は、資産が「経営者が予期した条件で稼働できるために必要な場所および状態に置かれた時点」、すなわち資産が利用できる状態になった時点から開始するとされています。実際に稼働を始めたかどうかではなく、「使用可能な状態に到達したか」が起点となるため、据付・調整が完了して使える状態になっていれば、まだ実稼働していなくても会計上の減価償却が始まることになります。


 この起点の違いは、日本の感覚で「まだ使っていないから償却前」と考えていると、現地の帳簿では既に償却が始まっている、という形でズレを生みます。本社への報告数値の調整において、いつから償却が始まっているのかを現地経理担当者・監査人と確認しておくことが重要です。なお、これはタイの会計上の取扱いであり、タイの法人税上は別途調整が必要な場合があります。


貸倒れの損金算入には、債権額に応じた厳格な手続が求められる


 日本では、回収不能となった売掛金などの貸倒れについて、法律上の貸倒れ・事実上の貸倒れ・形式上の貸倒れといった区分のもと、全額が回収不能であることが明らかな場合や、一定の売掛債権について取引停止後1年以上弁済がない場合など、必ずしも裁判手続を経なくても条件を満たせば損金算入が認められる場面があります。


 一方タイでは、貸倒損失を法人税計算上の損金とするための要件が厳格であり、債務者一人当たりの債権額に応じて必要な手続が異なります。20万バーツ以下の債権については、合理的な督促を行っても回収できず、訴訟費用が回収見込額に見合わないと認められる場合などには、裁判手続を経なくても処理できる可能性があります。他方、金額が大きくなると、民事訴訟や破産手続の申立てが裁判所に受理されること、さらに高額になると、強制執行を進めて債務者に弁済可能な資産がないことを確認する、または破産手続を一定段階まで進めることなど、より重い手続が要件となります。加えて、事業から生じた債権またはすでに課税所得の計算に含めた債権であること、現・元取締役等に対する債権でないことなども条件とされています。


 つまり、「もう回収できそうにない」という会社側の判断だけでは、税務上の損金とすることはできません。会計上は貸倒れとして費用処理していても、所定の手続を踏んでいなければ法人税申告では否認され、その分の税負担が残ることになります。回収不能が見込まれる債権がある場合には、損金算入の可否を早い段階で見極め、必要な手続を計画的に進めておくことが重要です。


まとめ


 今回取り上げた3つのポイント――個人所得税の居住者概念と課税範囲、減価償却の開始時点、貸倒れの損金算入要件――はいずれも、日本の実務感覚を前提にすると見落としやすいものです。


 これらは単なる制度の違いというよりも、その背景にある「どの時点で・どの範囲を・どのような要件のもとで課税や費用処理を認めるか」という前提の違いに起因しています。日本ではあまり意識されないこれらの前提が、タイでは個人・法人それぞれの税負担や帳簿数値に直結します。


 「日本ではこうだから」という発想に頼らず、タイ側の制度・実務上の前提を一つひとつ確認しながら運用を構築していくことが、個人・法人を通じた税務対応の安定化につながります。本コラムが、そうした視点整理の一助となれば幸いです。



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