銀行明細に名前が出ない?支払いは遅れる?リスク判断も違う ― タイ経理の3つの実務ポイント
- 倉地 準之輔

- 14 時間前
- 読了時間: 4分

タイの経理と日本の経理は同じではない
タイでの経理業務には、日本での経験や常識がそのまま通用しない場面が数多くあります。今回も、日本では当然とされる実務が、タイでは異なる前提で運用されている3つのポイントを取り上げます。日タイ間の制度・文化の違いを理解し、実務対応のヒントとしていただければ幸いです。
銀行明細に取引先名が表示されないことがある
日本では、銀行明細に振込元・振込先の名称が一定程度記載されるため、その情報をもとに会計処理を行うことが可能です。入出金の内容も明細からある程度推測できるため、銀行明細ベースでの記帳や消込が実務上成立しています。
一方タイでは、銀行明細に取引先名が表示されないことが少なくありません。そのため、入金があったとしても「誰からの支払いなのか」が明細だけでは分からず、金額以外の手がかりが存在しないという状況が発生します。
この結果、実務上は『銀行に問い合わせる』『社内で支払予定と突き合わせる』『最終的には取引先に確認する』といった対応が必要となり、場合によっては「振込時の画面スクリーンショットを送ってもらう」という対応が求められることもあります。
日本では考えにくい手間ですが、こうした前提の違いがあるため、銀行明細だけで完結する業務設計は成立しない可能性がある、という認識が必要です。
支払いを遅らせるのが経理の仕事、という感覚
日本では、仕入先への支払いは契約通りに行うことが基本であり、支払い遅延は信用低下に直結するリスクと捉えられています。そのため、実務上はほぼ100%に近い水準で期日通りの支払いが行われていると言われています。
一方タイでは、支払いに対する考え方がやや異なり、必ずしも期限通りの支払いが最優先とは限らないケースが見られます。実際、ある国際調査では、タイにおける期日通りの支払い比率は54.8%とされており、日本とは大きな差があることが示されています。また実務レベルでは、「支払わないと問題になりそうな相手には支払い、そうでない相手は後回しにする」という判断がなされるケースもあります。つまり支払いは、「契約上守るべきもの」というよりも、資金繰りの調整手段の一つとして扱われている側面があります。
支払い遅延が望ましいものではないことは言うまでもありませんが、日本の基準が非常に高い水準にあること、そして支払いに対する考え方自体が異なる場合があることを理解しておくことが重要です。
リスクの定義が「罰金が出るかどうか」に寄ることがある
日本では、コンプライアンスの観点からリスクは広く定義され、法令違反の有無にかかわらず、問題が生じる可能性がある行為は避けるという傾向があります。時には過度にリスク回避的と感じられるほどです。
一方タイでは、リスクの捉え方がより実務的で、「罰金や金銭的ペナルティが発生するかどうか」を基準に判断される場面が見られます。例えば、株主総会は決算期後4ヶ月以内に実施する必要があり、会計監査もそれまでに完了することが求められます。しかし、これに遅れた場合でも直ちに罰金が課されるわけではないことから、監査完了が遅れても問題視されないことがあります。一方で、法人税申告は決算期後150日以内とされており、これを過ぎると罰金が発生するため、こちらは厳守されるというスケジュールが組まれることもあります。
このように、「何がリスクか」の定義自体が異なるため、日本と同じ感覚で優先順位を設定すると、現地実務と乖離する可能性があります。
まとめ
今回取り上げた3つのポイント――銀行明細の情報不足、支払いに対する考え方の違い、そしてリスクの定義の違い――はいずれも、日本の実務前提では見落としやすいものです。
これらは制度の違いというよりも、実務運用や判断基準の違いに起因するものであり、帳簿だけを見ていても気づきにくい領域です。
「正しいかどうか」だけでなく、「現地ではどのように判断されているのか」という視点を持つことが、スムーズな経理運営の鍵となります。違いを理解し、現地の実情に即した対応を柔軟に構築していくことが重要です。
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